来る

『来る』を観る。静かに軋みを上げるような欺瞞的な日常から、やがて怪異が顔を出す。かさぶたを引き剥がすようにして不穏が現れるまで30分。妻夫木聡と黒木華のドラマと思いきや、岡田准一と小松菜奈の登場により位相が転移してからが面白い。

登場人物のえげつなさが中島哲也の画面の色遣いと相俟って毒虫のようなおぞましさが立ち上がってくる。怪異は来るのではなく顔を出す。空っぽであることを念入りに描くことで、観客さえ、知らぬ間に呪う側に回っている脚本の妙は素晴らしい。ホラー・エンタイテイメントという惹句には案外、端倪すべからざるところがあって、クライマックスに繰り出されてくる一群の外連は最高と称賛する他ない。