ブラック・クラブ

『ブラック・クラブ』を観る。ノミオ=ラパスが主演のディストピア映画。敵の侵攻と長い戦いの果て、恐らくは低出力核の使用もあって荒廃したヨーロッパを舞台として、軍隊だけがかろうじて機能しているその世界で、命令をうけて氷上の長征を行うことになった民間出身の兵士たちの末路を描く。この設定が、いろいろと時節を捉えていて、まずはそこに驚く。

北欧らしきこの国に侵攻して民間人を無差別に攻撃する敵の正体はロシアでしかありえず、日常の崩壊を描く場面は今日を予見したかのようで、この映画の一番の見どころにもなっている。ライフラインの途絶と民家近くへの爆撃、その振動で舞う埃の繊細な描写は精緻であるがゆえに現実を想起させ、恐るべき同期を現出させているのである。今次のウクライナ侵攻がなければ、古臭い20世紀風の世界観だと思ったはずだとして。

ノミオ=ラパスは娘と生き別れになった母親を演じて、例により切実な印象の演技でうまい。美術もCGも北欧映画のいちばん高いあたりにあって、画面のクオリティも悪くない。人々が凍りついた海のイメージには慄く。

少し違和感があるとすると、この世界においてなおヘリが運用されているところで、そのリアリティはともかく、ならばミッションの必要性そのものが成立しないのではないかと思わなくもない。