『疫神記』を読み終える。分量としては1,500ページほどもあって、前半は『フォレスト・ガンプ』の大陸横断みたいな話に、荒唐無稽なAIだのナノシステムだのという要素が絡んでくるのだけれど、現実の時節に合った社会の分断なども織り交ぜつつリアリティ側に振った話が進むので何だか読んでしまう。作者の念頭にあって、手厳しく描かれるのは陰謀論とトランプのアメリカで、市井の共感が物語をドライブしていく。
その心意気を最後まで見届けるつもりで集中的に時間を投じてきたのだけど、結末にかけてストーリー的な山場は用意されているとして、微妙に謎を残しつつ何なら続編に続くという終わり方は、シーズン2の制作が正式には決まっていないTVシリーズを観ている感じで、まじか、となっている。ううむ。
そしてこれもまた、カオスをカオスとして描くことができていない物語であり、陰謀論を批判的に扱いながら、その方法は陰謀論と同化する不思議な構造を持っている。おそらく、そのことに無自覚なのが話の奥行きに透けているのも残念なところであろう。東山彰良の『ブラックライダー』を思い出しながら読んでいたのだけれど、物語としての格はだいぶ違う。