さて、2022年も高田大介の『図書館の魔女』の続編は出ることなく過ぎる。とはいえ、紙魚の手帖で『記憶の対位法』の連載があり、別冊文藝春秋ではエッセイに加えて連作の『Edition Critique』の掲載が始まっているので、進捗が何もないというわけではないのである。この年末はその『Edition Critique』を第1話、第2話とゆっくり読んでいる。何しろ「文献学というのはテクストを可能な限りゆっくり読むことだ」という言葉が引かれていて、文献そのものの探究を題材とした話であるからには。この伝でいくと、文献学にかかわる創作が可能な限りゆっくりであっても不思議はない。それはともかく、こうした素材をよく面白い小説にするものである。
年の暮れ、ニュースでは防衛産業の生産ラインの国有化を可能にする法案が国会に提出されるというリーク情報が伝えられる。これがNHKのニュースになるのはもちろん意図にもとづくもので、兵器輸出にかかわる基金の創設といった剣呑な話まで添えられると、一気呵成にことを推し進めようという強い意志を感じざるを得ない。松本清張が言うように、2.26事件のあと、軍部と軍需産業は手を組んで「大股に」戦争に向かうのだが、その共謀の内実を国民が知るのは戦後になってからで、利害にもとづいた同じような策謀があったとしても全く驚かない。