疫起/エピデミック

『疫起/エピデミック』を観る。2023年の台湾映画で、英題は『Eye of the Storm』。SARSらしき症状の病気が広まっているという話が広まり、台北の総合病院が封鎖されて防疫対応の焦点となる。物語の舞台は2003年で、昔懐かしいNOKIAの携帯やPHSが登場したりするのだが、アジアを中心に起きたSARSのパンデミックとそれにともなう社会的なパニックを背景として、実際にあった台北市立和平医院の封鎖を題材にしている。それによって拡大した院内感染では10人以上の医療従事者が亡くなったのだから、これはほとんど事件といっていい。2週間の封鎖措置の間に自殺者すら出たというのである。

切迫した往時のアジアの雰囲気はよく知らなかったけれど、COVID-19のパンデミックを経験したあとでは、この映画に近いことが起きていたに違いないというのはよくわかる。状況が理解できぬまま、巻き込まれた当事者の視点で物語はすすむ。全体の作りも非常に丁寧で、制作の意図は明確だし、この時期にあってその意義は一層、大きい。こうした教訓を踏まえて台湾の防疫対策が大きく改善されたというのもよく知られた話だが、しかし本邦がこのたびのパンデミックから同じような教訓を得たとは、どうも思えないと考えたことである。