鵼の碑

京極夏彦の百鬼夜行シリーズの新刊が17年ぶりに出るというので早速、予約する。単行本と講談社ノベルスの二形態で発売されるみたいなのだけれど、本棚の一貫性を考えれば無論のことノベルス一択ということになる。新書で832ページということであれば『鉄鼠の檻』や『絡新婦の理』とほとんど同じ厚さということになろう。楽しみ。予約時点でAmazonのベストセラーになっているのは当然として。

この日、中国の恒大グループは米国で破産法の適用を申請する。これまで幾度となく語られてきた困難なシナリオの、その第一章がほとんど想定通りに現実化したということになる。いやはや。

eSIM

フィリピンに行った時にAiraloのサービスを利用して、eSIMでプリペイドという体験がなかなか快適だったので、キャリアをpovo 2.0に変更してみる。iPhoneもじきeSIMが基本になるみたいだけれど、何しろ手続きが簡単だし、自分の使い方だと通常はローコスト運用で、使う時は短期間の大容量ロットを買い求める柔軟運用が合っているので、なぜ早くこうしなかったのかと思うくらい。海外データ通信もトッピングできるようになったらしいので、しばらくはこれで運用するつもり。振り返るとOCNモバイルONEは7年くらい使っていて、特に不便を感じたこともなかったのだけれど、世界は変わっていくのである。

NHKをみていたら、コロナが再度、感染拡大しているというニュースをやっていて、いや、そのこと自体は既に旧聞に属するものだから、何を今さらという感想を禁じ得ない。改めて指摘するまでもなく、お盆が終わったからという判断だろうけれど、少なくともそれ以前に専門家の懸念が表明されているなかで、これは報道機関の責任を果たしていると言えるのか。これが事大主義でなくて何なのか。

1943

盆休みなのでNHKスペシャルの『ドキュメント太平洋戦争1943』を観る。太平洋戦争の雲行きが怪しくなった1943年からの、市井の人の日記の記述を拾って戦況の悪化を説明していく趣向。この年から既に物資の絶対的な不足、少年の動員など、挽回不能な劣勢にあることが明らかでありながら、この戦争が終結するまでさらに2年余りかかったのである。歴史の合間に埋もれた稗史を掘り起こす取り組みも大変、大事であると思う。

二夜連続の後編では、動員のノルマ、学徒出陣壮行会や煽動するメディアの様子が、そうして送り出された若者のうちに多くの餓死者が出ようとは未だ知らない人々の言葉で語られる。題材となった日記を「エゴ ドキュメント」と称して紹介するのだが、南洋の島で置き去りにされた徴用工の日記などは、この国の軍隊の実相を伝える一流の史料というべきであろう。

今日のNHKは、国家の走狗としての報道姿勢が際立ち、もうだいぶ毒が回っているとしか見えないが、さきの戦争を扱うドキュメンタリーの制作ではさすがに良識を保っていて、それも連綿と繋がれてきた文脈があればこそであろう。毎年、終戦の日を迎えるにあたって戦争を否定し、メディアの姿勢を自己批判して、国民の啓蒙に努める番組を作り続けることは公共放送の使命といってよく、そのことはさすがに弁えているようである。ナレーションにもビックネームというべき役者を布陣していて、気合を感じる。

疫起/エピデミック

『疫起/エピデミック』を観る。2023年の台湾映画で、英題は『Eye of the Storm』。SARSらしき症状の病気が広まっているという話が広まり、台北の総合病院が封鎖されて防疫対応の焦点となる。物語の舞台は2003年で、昔懐かしいNOKIAの携帯やPHSが登場したりするのだが、アジアを中心に起きたSARSのパンデミックとそれにともなう社会的なパニックを背景として、実際にあった台北市立和平医院の封鎖を題材にしている。それによって拡大した院内感染では10人以上の医療従事者が亡くなったのだから、これはほとんど事件といっていい。2週間の封鎖措置の間に自殺者すら出たというのである。

切迫した往時のアジアの雰囲気はよく知らなかったけれど、COVID-19のパンデミックを経験したあとでは、この映画に近いことが起きていたに違いないというのはよくわかる。状況が理解できぬまま、巻き込まれた当事者の視点で物語はすすむ。全体の作りも非常に丁寧で、制作の意図は明確だし、この時期にあってその意義は一層、大きい。こうした教訓を踏まえて台湾の防疫対策が大きく改善されたというのもよく知られた話だが、しかし本邦がこのたびのパンデミックから同じような教訓を得たとは、どうも思えないと考えたことである。

見果てぬ夢

そういえば、例の常温常圧超伝導は科学の発展に寄与することさえない単なる事実誤認という線で決着したということのようである。それはもちろん、残念なことに。この文明ももしかしたらワンチャンあるかもと思ったりしたのだが、やはり地球の気候の沸騰化への対策を真剣に進めない限り、あらゆる気候災害は激甚化していくだろう。マウイ島で起きた火災は、なお1,000名の安否が確認できていないとも伝えられる。

『石子と羽男』のスピンオフドラマ『甘美と塩介』を観る。最近では珍しくない趣向のショートドラマだけれど、本編には登場しない久保史緒里が探偵役というのが面白い。第6話では本編のその後に接続して、石子が司法試験に合格したという話が語られる。すっきり。

僕と幽霊が家族になった件

『僕と幽霊が家族になった件』を観る。2023年の台湾映画。死者との婚姻である「冥婚」の風習が残る台湾で、事故で亡くなったゲイの青年マオと結婚することになった警察官が、その死の真相を解き明かし、彼の家族が抱えたわだかまりも解きほぐしていく。アジアで初めて同性婚を法制化した台湾で、しかしゲイに対する偏見を隠さない主人公ウーが相棒となったマオとやがて心を通わせていくあたりが見どころの物語。犬も出てくる。

環境保護に対する思いを強く残して死んだという設定が、父に遺す最後の言葉につながるあたりは秀逸で、よくあるバディものの変形ながら脚本はよく出来ている。この憑きもの落としのくだりは泣ける。許光漢と林柏宏のカップリングも素晴らしい。物語の可能性のなんと奥深いことか。この世界のダイナミズムに、年老いた日本は決して伍していくことはできないだろう。

ハヤブサ消防団

中村倫也が主演のテレビドラマは直近の第4話まで観ているのだけれど、そのヒキが気になって原作の小説を読む。池井戸潤の小説は初めてである。ドラマは原作をかなり忠実になぞっている様子ではあるけれど、テレビ的な脚色がうまく施されているようである。話自体は、まぁ、ふーんという感じ。