記憶は繋がっている。『ステーション・イレブン』を思い出したことで、当時読んでいた『古書の来歴』を再読したくなって、これを探したのだけれど、既に絶版らしく、古書で買い求めたのである。『古書の来歴』だけに。
そのこと自体はよくあることだが、ほんの10年前、権威のほどはわからないけれど、翻訳ミステリー大賞をとった作品がその状況で、本邦の翻訳出版をめぐる状況は改善の兆しを見せることなく、継続的に悪化しているとしか思えない。円安の状況において買付と出版の採算も悪化し、インターネットを通じて機械翻訳の情報が拡散する世界では、質のよい翻訳は速やかに駆逐されるであろう。
構造的には人口減少によって日本語の話者すら漸減し、教育の退廃と教養の衰退によって本邦は知識経済の辺境となる運命である。世界の文脈から外れ、国自体が買い叩かれる安い国となって、それゆえに観光産業が隆盛する衛星国化は既に始まっているが、それを嘆くものは少ない。