『善き人のためのソナタ』を観る。旧東ドイツのシュタージによる監視を題材にしているからには重苦しいのは当然として、圧政が痛みというよりは正しく圧力として存在していたことが丹念に描かれる。その圧力によって人が潰され、一方で全くひっそりと施される善き行いを抑制的な演技でみせた主人公、ヴィースラー大尉役のウルリッヒ=ミューエは最近、病没したばかりだが、全く惜しいことだ。物語の最後、唐突に嗚咽の発作を呼ぶような語り口(ひとり密かに観賞した方が安全だ)は、役者の表情と相俟って深い感動を残す。優れた映画である。