サルバドールの朝

frog『サルバドールの朝』を観る。フランコ独裁政権下のスペインという舞台設定では『パンズ・ラビリンス』を最近、観ているけれど、こちらは相当にリアルなつくりで70年代的雰囲気を実によく描いている。冒頭、サルバドールが逮捕される場面に始まり、本編は概ね回想からなる前半と死刑執行に向かう後半からなっているが、比較的、恵まれた出自であり線が細くも見える主人公が一つ一つ持てるものを葬り可能性を閉じていくプロセスが主眼で、その中にも党派的な主張はほとんど窺えない。
評伝を越え、普遍的なテーマを読み取るべき内容であろうが、史実的な側面ではフランコ政権下の刑務所に非常勤の死刑執行人の親爺がふらりと登場したりして意外な驚きがある。ガローテと呼ばれる鉄環絞首刑は常設の刑場ではなく、この親爺が探した適当な場所で執行されるのだが、変哲もない倉庫部屋を見回して、うんまぁここでいいだろ、などとやられると、ほとんど中世的な恐ろしさがあって、それだけで鳥肌が立つ。思えばスペインはフランコの日和見外交により第二次世界大戦の渦中になく、大量死の世紀においてどちらかといえば内向していった国家であって、このあたりの時間軸の違和感は非常に興味深い。この映画において主人公はフランスという異界との国境を往還することにより無政府主義活動を行うのである。
描き方も最後まで手を抜かないので免疫のない向きにはお勧めできないが、いろいろと丁寧に作られており事実を題材にしているだけに好感が持てる。