ダークナイト

grain坊やと映画館に出かけ、夏休みに入って集客力を上げている『崖の上のポニョ』には目もくれず、『ダークナイト』を観る。傑作である。前回の悪役スケアクロウが登場したり、ウィリアム=フィクトナーがショットガンをぶっ放したり、サービス満点の開巻から期待は高まるというものだが、ヒース=レジャーのジョーカーの存在感は、その風貌を現した時点でジャック=ニコルソンのそれを凌いでいる。今後、バットマンのジョーカーといえば、その早世を悼みつつ、ヒース=レジャーの名を以て語られることになろう。
前作『ビギンズ』において独特の磁場を有していたゴッサムシティは今回、ニューヨークそのもの(実際はシカゴ)として演出さているが、実在の香港が舞台として登場することもあわせ、これは意図的なものである。バットマンの苦闘に世界の警察官たるアメリカ合衆国を重ねて観るのも、そう困難なつくりとはなっていない。何しろ重要な小道具としてエシュロンシステムのごときシロモノが登場し、倫理性について語られたりするのである。そう考えると本編は、悪名を帯びても己が信じる正義を遂行しようという主体の決意表明であり、なんとなく穏やかでないと言えなくもないが、何しろ単にその展開だけでも十分に観られるし、アクションも手を抜いたところがないので全ては許される。香港上空のスカイフックなど、画面の構図だけでもごはん三杯はいけし、トラックを遠心力で海に落としてみせるのだって、これはなかなか出来ることではないのである。
レイチェル役がケイティ=ホームズからマギー=ギレンホールにバトンタッチされているのも、単なる役者交代を越えて物語の雰囲気を引き締めている。『ビギンズ』における微温的な記憶が、いよいよ葬送されてクリスチャン=ベイルは彼岸の人のオーラを漂わせており、その目つきはほとんど性癖的犯罪者のものである。やはり恐るべき役者といわねばなるまいが、半分は地ではないかと思われ、私生活で報じられた警察沙汰が全く違和感ないのもまたコワい。クリストファー=ノーランは素晴らしい仕事をしており、ジョニー=デップが出るのではないかと言われている続編が今から楽しみである。