『インクレディブル・ハルク』を観る。やり直し、というわけであろうか。エリック=バナ主演だった前回の『ハルク』も、やたらと長いとはいえ、それほど嫌いではないのだけれど、エドワード=ノートンの線の細い感じのほうが、面白味を増すといえばその通り。日本での興行収入は散々だったらしいが、本邦には怒るときは怒らなきゃ駄目よ、という大魔神文化があるわけで、幸の薄そうなブルース=バナーがしかし必死に怒りを抑制するような辛気臭い筋書きは、まぁ、ウケないかもしれない。あるいは、民草のために立ち上がるという動機が用意されなければならないのかもしれない。ロス将軍の専横ぶりときたら、天誅が下ってもおかしくないという展開なのだが、米軍でありヒロインの父であることから、あらかじめ免罪されているという結構で、このあたりには『超人ハルク』という物語が抱えるアメリカ大衆文化のコードが透けて面白い。終盤、ニューヨークでひと暴れするあたりは、ほとんどアニメーションの表現で、画面をコマに割ってみせた前回の『ハルク』とはイキのよさがだいぶ違うし、物語の最後にはアイアンマンことトニー=スタークが登場してマーベル・コミックのサーガ的な広がりに期待をもたせたりと、なかなかのサービス精神なのである。