『グラン・トリノ』を観る。凝ったレイアウトのない画面は、玄関のポーチから外を眺めビールを飲む老人の日常に通じて、音声には風の音さえ入る。物語はその原型を極めようとするかのようにシンプルだ。だがしかし、地下室の扉越しに交わされる会話とその構図、その映像が、告解室のシーンを受け相似を作っていることを見逃してはならない。あるいは、同様にHail Mary, full of graceという最後の呟きを聞き逃してはならない。瞬時に、強烈なトルクで立ち上がってくる贖罪のモチーフは、実に全編を通して背景に存在していたものであり、極めて映画的な表現の、その完成度の高さには震える。クリント=イーストウッドの凄さは今さら讃えるまでもないが、傑作であろう。