机の脇には未読の本がタワーとなっているのだが、何故か有川浩の『キケン』を読む。例によって物語をドライブするのは葛藤ではなくあうんの呼吸という同時代的な小説で、これよりはだいぶドライという感じだが辻村深月と同じようなにおいがする。
大学の部活とそれに付帯する周辺活動を題材にしてキャラクターでひっぱる話で、学園ものを読むと大抵、笹本祐一の『ハレーション・ゴースト』を思い出すのだけれど、こちらにはファンタジーの要素は含まれておらず、それどころか男ばかりの工科大学が舞台なので女性比率自体が極端に低くて、このあたりは『ここはグリーン・ウッド』を想起させるわけだが、であるにもかかわらず「幸福な結婚生活」という有川浩特有の記号はかなり強引に導入されていて、とりあえずそのフォーマリティに感心してしまう。おそらく、優れた漫画家がレイアウトの感覚を知っているのと同じように、このあたりの案配は作家独自の臭覚によって完成されているに違いない。すらすらと読めてしまうのだが、であるがゆえにちょっとむずむずする。