『ファッションが教えてくれること』を観る。『プラダを着た悪魔』のモデルになったと言われる(これは間違いなくそう)「ヴォーグ」の編集長アナ=ウィンターとシニアスタッフのグレイスの仕事を、一年のヤマ場となる9月号の編集作業を通して描いたドキュメンタリー。ファッションには何の興味もないのだが、プロの仕事、それも修羅場というものは端で見ているぶんには実に興味深くて、下手をすると『プラダを着た悪魔』よりも面白い。実際のアナ=ウィンターはメリル=ストリープほど厳格には見えないが、よりカジュアルに冷酷な印象であってキャラが立っている。冒頭近く、イヴ・サンローランのチーフデザイナーがなで切りにされるくだりでは空気が凍る。対して、元モデルという経歴をもつグレイスは、いろいろ勘定すると70歳前後の年齢であると思われるのだが、才能あるディレクターであって人材の奥行きの深さをみる気がするのである。ヴォーグ9月号は、その分厚さによって風物詩と化しているらしいのだが、コンピタンスは優秀なファッション写真であるとみえ、それを武器としておそらくは電子出版にも対応していくであろう。