『モンスター』を読む。『ボックス!』は最近、映画にもなったらしいが、百田尚樹は不思議な作家である。文体には癖がなく、作品のモチーフはこれまで「どこかでみたような話」ばかりで、いわゆるオリジナリティを過度に重視する昨今の風潮においてはあまり祝福されそうにない。まず、デビュー作の『永遠の0 (ゼロ)』にしてからが『壬生義士伝』と、どうかすると『グランド・ミステリー』のあり得ない融合なのである。それでもだ、それが『壬生義士伝』なら転生したものであっても読みたいというのがファンというものであって、そのあたりのニーズにぴたりと収まるような小説になっている。癖がないのに面白く、読み始めれば巻を措く能わずで一気というのが特徴であり、不思議というのはそのあたりのことを言っている。
『モンスター』も、新堂冬樹か『嫌われ松子』かという感じで、エンターテイメントというには黒いのだが、これまた読める。こっちにもフィクションへのオマージュというアタマがあるので、荒唐無稽な内容に違和感がない。いわばメタレベルで独自の地位を築いているのであって、意図的であるか否かを問わず、このあたりの間合いの取り方がまた面白い。