『古書の来歴』を読んでいる。ユダヤ教の写本であるサラエボ・ハガダーを巡るミステリ仕立ての物語をボスニア、さらにはユダヤ人の迫害の歴史と絡めた小説で、なかなかに面白いのだが、冒頭に引用してあるハイネの言葉が「書物が焼かれるところでは最後には人も焼かれる」というものであり、内容と相俟って深い。
話は過去と現代を往還しつつ進行するが、ナチス侵攻の時代、パルチザンに合流した少女ローラの運命を語るエピソードは特に印象に残る。使役されるラバとの別れの場面は涙なしには読めない。
「大切にしてもらえるように祈っている。あたしたちに示した以上の思いやりを、あなたが得られますようにって」