片岡義男

コジャレたイラストが表紙の、赤い背をした角川文庫がよく行く本屋にもズラリと並んでいたのは中学生の頃だったように記憶しているが、思えば片岡義男という作家についてはこれまでほとんど知らず、最近ではその書籍もあまり見かけないので、世代としては何だか擦れ違ったようになっていた。
いうまでもなく図書館は関心の多寡に対して同一尺度の対価を求めないという点において優れて文化的な施設であり、つまりあまり興味はなかったのだがタダなので借りてみて、一読、予想していたのとはあまりにも異なる作風にびっくりしてしまったのである。まず、小説を書くということ自体にこれほど拘ったひとだとは知らなかったし(こうした題材は現実に多くの小説家志望を生み出したに違いない)「あらゆるものからすっきりと距離を取って、ハードボイルドな視線で人をとらえた小説」という文中のセリフをそのまま地でいく文章は、喫茶店で話をしているだけという一連の所作を小説的に「細かく割って」興味深いものとし、その上、物語の構造は紛うことなく聖杯探求譚をなぞっていて奥が深い。何よりこの印象。これって村上春樹と矢作俊彦を繋ぐミッシングリンクなんじゃないの、と問いかけてみたのだけれどもちろん答えはなかった。