『第9地区』を観る。我々は宇宙の孤児ではない、というわけで、ファーストコンタクトにもいろいろな想定があるわけだが、遠路遙遙というエイリアンをあからさまな被差別待遇に堕として20年収容という本作の設定は、エイリアンものにおける固定的な観念に反するがゆえにユニークであり、であればこそ何らかの寓意を想像させずにはおかない優れた仕掛けとして機能している。『エイリアン・ネイション』のエイリアンでさえ、こんな扱いはされていなかったわけで、ドキュメンタリー風の前半はインタビューに加え監視カメラの映像も上手く使った演出で奇想天外な設定にリアリティに繋がる細部を付与しているし、その手法に拘らないことで後半の展開は意外性を一層、増している。POV映画というのは手法に縛られて窮屈になりがちだけれど、演出というものは物語に寄与すればよいのだということの好例であろう。
このあたりの「おおらかさ」は随所に発揮されていて、映画そのものがアパルトヘイトに批判的な寓話として機能しながら、ナイジェリア人が凶悪なギャング団として記号化されていたりする。意地悪く考えれば、「南アフリカならこんなこともあるかもしれん」という演出上の都合で舞台は選ばれたのであり、「アパルトヘイト批判」という作品の捉え方はそれ自体、深読みのし過ぎということになるのかも知れない。
意図はどうであれ、娯楽作品としてはよく出来た内容であり、中途半端にまとめないあたりの割り切りも好ましい。傑作。