どくとるマンボウ

北杜夫氏のご冥福をお祈りする。思えば、『どくとるマンボウ』は読書体験のかなり初期にあって、巻を揃えるほどに熱中した。トーマス=マン、あるいは文学が好きだという語り口がそのまま文芸になりうるのだということ学んだのはもちろん同氏からであったし、読者の数を考えれば、その知的態度がこの国の文化を賦活した功績は計り知れない。自分に限っても、所縁のない長野に住み、今では子供が松本の高校に通っているという符合を考えれば、受けた影響の大きさというのは、意識しているよりも大きいのではあるまいかという気がするのである。