『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』を観る。リーマンショックをもたらした金融システムの規制緩和とその腐敗を題材とした2010年のドキュメンタリーで、当時も話題となったが、このタイミングで再び評価するべき映画。理由は二つある。
ひとつは、いま現在の時間帯が、サブプライムに始まりいったんは終息したかに見えた金融危機の、二度目の崩落を目前にしたタイミングであるということである。これから奈落に墜ちようというわけだから、もちろんこの場所まで運び上げられたのは何故かを問うことには大変、意味がある。それが延命に役立つわけではないにせよ。このドキュメンタリーは、どういう詐術が用いられたかではなく、どいつが詐欺を働いたかに焦点を当てているので、呪うべき相手がはっきりわかるようになっている。当時の供述と報道の様子を反芻すれば、今日述べられていることと本質的には類似していることに気づく仕掛けであり、つまりサブプライムがソブリンに格上げされているからといって詐欺師の口上が変わるわけではないということもよくわかる。
もうひとつは、金融を中心として産業と政治、さらには学界の共同共謀正犯からなる構造が、原子力政策のそれと相似であることを強く示唆する内容になっていることである。恐ろしいほどに、そして滑稽なまでに似通った構造であるからには、本作の四部構成にならい、フクシマを起点として、1960年代にはじまるの原子力政策の推進、欲望に従い巧妙に築き上げられてきた産官学構造、危機が到来してなお結束堅い利権層という筋書きを組み立てることは造作もない。それは薄気味悪いほどに類似したドキュメンタリーとなるはずだ。ちょうど本作における当事者の供述が、『スペシャリスト』で淡々と述べられたアイヒマンの自己弁護と似ているように。
作品中、前IMF専務理事のドミニク・ストロス=カーンが登場して、強欲な米国金融界について批判的な証言を行うのも、その後の経緯を思い浮かべれば非常に興味深いし、クリスティーヌ=ラガルドも出ているとあってはなおさらだ。このあたりは米国に対するフランスの意地とみえるし、そのフランスが到来する危機の渦中にあるとみれば、まったく目眩がするほどに、因果は巡る。