『シングルマン』を観る。クリストファー=イシャーウッドの小説を原作とした映画で、トム=フォードが監督/脚本/製作。トム=フォードといえばグッチのデザイナーだが、もともとは俳優を志していたらしい。映像的でわかりやすい演出は映画化の必然性を感じさせるし、そのセンスは洗練されている。オーソドックスな象徴の使い方はかえって新鮮で、デザイナーらしい様式美に裏打ちされており感心する。そして原作、監督から容易に推測されるとおり、非常に耽美的。『アバウト・ア・ボーイ』で少年を演じていたニコラス=ホルトが美青年になって登場し、このあたりはマニア垂涎という感じなのである。いやはや。
主演はコリン=ファースで、アカデミー俳優となった今、その存在感は言うまでもなく大きいのだが、この映画の主役が結局のところトム=フォードであるということは疑いようがない。監督としての才能はなかなかのものとみえるが、再びメガホンをとったときにどのような映画を作るのかというあたりに興味がある。