『トゥルー・グリット』を観る。ジョン=ウェインの『勇気ある追跡』のリメイク、とはいえ、監督はコーエン兄弟なので完全に新しい物語となっていて、西部劇であるにもかかわらず、『オー・ブラザー!』と同様、神話的な骨格を与えられている。
荒野へと分け入っていく追跡劇は、リンゴを投げ捨て、河を渡るところから始まり、行為には必ず代償が伴い、蛇は唐突に現れて人を襲い、主人公は冥府から逃走する。その主人公のマティは、人界では交渉により運命を切り拓こうとするが、荒野を支配しているのは神の掟であって、この復讐劇では人を殺めた結果として必ず欠損の報いを受けるようになっている。ルースター・コグバーンが右目を失っているのはそのためだし、マット=デイモン演じるテキサスレンジャーのラビーフが、重傷を負いながらぴんぴんしているように見えるのは、演出上の意図であって、失策ではないのである。そのラビーフが結末に顔を出さないのは、つまりそういうことだ。
ことほど左様に、ジョン=ウェイン的世界とはかけ離れた物語ではあるものの、ラストシーンにそのまま『シェーン』をもってきたように、西部劇を哀悼する構造となっているのは疑いなく、コーエン兄弟の脚本は象徴に満ちて時代背景を咀嚼したものであり、荒野を疾走する終盤の道行きは大いに劇的な効果があって見どころといえ、全体として明確な作家性を示している一方で、面白みのある話となっている。