『ブラック・スワン』を観る。ダーレン=アロノフスキー監督には『レスラー』でも感心したが、本作からたち上る妖気はあれに描かれていた世界とは全く異質なもので、力量の大きさが窺える。舞台装置はいずれも迷宮のような印象であり、明暗の対照はきつく、鏡にうつる虚像とその歪みは総体としてざわざわとした心証であり、バレエの回転運動は手持ちカメラの効果により奇妙な振幅を与えられ、観ているだけで疲れてくるあたりがまずすごい。アカデミー主演女優賞を獲得したナタリー=ポートマンの演技も素晴らしいものだが、それだけではないと思うのである。出口のない人間関係がやがてすべてをかけた跳躍へと収束する物語というあたりは、いうまでもなく『レスラー』と同様の構造であって、このあたりも興味深い。ヴァンサン=カッセルも適役。