『マザーウォーター』を観る。これもまた『かもめ食堂』の一派が制作した映画で、京都を舞台としている。小林聡美がウイスキーしか出さないバァ、小泉今日子が喫茶店、市川実日子が豆腐店をそれぞれ営んでいるという設定で、事件は起こらないのだが、ほぼ呑んだり食べたりということだけで話は進んでいく。ダイアログは伝統的邦画世界のそれ、画面と舞台装置は動画版ku:nelという印象で、だめな人は全く受け付けないと思われるのだけれど、恥ずかしながら嫌いではないのである。
描かれているのは基本的なヒトの繋がりであり、共同体の機能であり、作中の美術センスが示しているようにそれがほぼミニマルなかたちで示されて、たとえば飲食はつねに提供された後で対価が支払われるという原則に従って豆腐は店の軒下で食され、子供は共同体が成り行きに従って養護する。基本と原則を大事にするというあたりが丁寧に書き込まれた脚本は何も起こっていないように見えて案外、よく考えられており、生活系女子特有のむず痒さはあるものの、雰囲気だけの演出とは違ってなかなかに完成度の高い作品になっている。
ウイスキーの水割りをつくるシーンが幾度となく出てくるのだが、この所作は優雅なもので見入る。そのうち相手によって濃淡を変えているあたりに気づいて感心するのだが、このあたりも芸というものであろう。