リトル・ブラザー

『リトル・ブラザー』を読んでいる。タイトルはもちろんオーウェルからのものであり、911後の監視社会をテーマにしていて、ハッカーの少年が果敢にこれに立ち向かうという単純な筋書きではあるものの、執拗に描かれるシステムの横暴はこの種の機能が「きちんと」働くアメリカの文化社会的背景をよく理解させるものであって、多くの市民が現在、感じている息苦しさの起源を感じる上で参考になる。これは決して他人事ではなく、大きな事件へのショック反応がどのように顕れるかは文化に応じて固有の傾向があると考えられるのだが、日本においては、システムの厳格化というよりは、風評や自粛といった情緒の総体の動きとしてまずは顕れている。
そんなわけで内容はそれなりに面白いのだが、訳出がイマイチ肌に合わなくて、「データマイニング」が「情報採掘」という言葉のルビとしてあてられたりしてるのだけれど、こういう偽ギブスンみたいな表現にする必要はないんじゃないかと思う。