『アウェイ・フロム・ハー』を観る。妻が認知症となった老境の夫婦を描いたドラマで、題材からしていろいろと重いのだが、感情の振れ幅を容易に表出させない演出が全体を象っているところが凄みであって、妻を演じたジュリー=クリスティの演技もさることながら、夫のゴードン=ビンセントの朴念仁そのものといった様子にも実は奥行きがあり、つまり能の舞台に似て制約下の表現はむしろその皮膚の下にあるものを一層、際立たせることに貢献しており、もちろんこれを意識的に行っている新鋭のサラ=ポーリー監督の才気には端倪すべからざるものがある。その結末は物語的な円環を閉じるためのものではなく、主人公ならずとも立ち尽くすほかないというものであって、思えばサラ=ポーリーは若いのにこんな感じの映画ばかり作っている。