『ウィンターズ・ボーン』を観る。酪農と非合法な稼業のほかに産業らしきものもなく、森林での採集生活が生活の基本にあるようなミズーリ州の僻地の、住人はほぼ縁戚なのではないかという閉ざされた共同体の中で、貧困のうちに精神を病んだ母の世話と幼い弟妹の養育をしている17歳の少女が、失踪した保釈中の父を探す羽目になってあちこち訪ね歩くうち、脛に傷のある人たちの気に障るところとなって非日常の厄介事まで背負い込むことになる。
軍隊に入るということが憧憬の枠に入るくらいの生活で、その貧しさは食うに困るレベルなので、野リスを狩ってそれを食すというようなことまでやっているのだけれど、荒んでいるとはいえ扶助の精神も残ってはいて、そのあたりが真冬に投げ与えられた僅かばかりの助けといったニュアンスのタイトルにもなっている。
主人公のジェニファー=ローレンスは、『X-MEN』で印象的なミスティークを演じていたけれど、今回は徹頭徹尾いわゆるハードボイルドの基本を踏襲した筋書きにおいて、サム・スペードばりに固ゆでな少女を全く違和感なく現出させていて注目に値する。やっかいな掟に縛られた男社会をこっそり再構成して辻褄をあわせている女たちというストーリーも、シンプルかつ骨太であって原作をよく咀嚼している。
生きていくこと自体が試練である人生において、結局のところこれを助けているのは、この娘は血縁である、あるいは、この娘は自分自身である、という精神であり、掟自体が構成員を抑圧するようになった共同体に、かろうじてそうした相互扶助が残っているあたりに希望を見いだしているというところが、話は全く異なるものでありながら『ザ・ロード』を想起させて深い。いかにも中西部風の男、ジョン=ホークスの変貌も見どころのひとつ。傑作。