おおかみこどもの雨と雪

『おおかみこどもの雨と雪』を観る。これは素晴らしい。
映像としての美しさはいうまでもない。都会を舞う雪の様子も、里山の景色も、恐ろしく細密な表現であり、この時代の到達を示している。
そうした技巧もさることながら、物語の織り方もよく設計されたものとなっている。要石となっているのは、いうまでもなく、おおかみおとこと母の恋だが、冒頭20分を占めるこの出来事に事態の異常性は凝集して後景化する。以降の起伏も尋常ならざるストーリーではあるものの、敢えて言うならそうした出来事はすべて「自然の摂理」に従っている。このクリシェがこれほどしっくりくる物語もそうはない。振り返ると、恋の異様が際立つ構造である。同時に愛の、根本的な強さを語っている。
おおかみは都会では生きて行くことができない。里山で人が生きて行くためには、共同体としての成り立ちが必要である。贈与を基本として、助け助けられる社会が人を生かしている。子は育つ。その過程のどこかで、何かが変わる。子は離れる。親は残る。
物語の原型というべき、人類が黎明期から繰り返してきた不動の原理によって編み出されるストーリーは揺らぎない。そのなかで発露する「まだ何もしてあげられていない」という感情は、つまり疑う余地のないものであって深く心を揺さぶるものである。

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