ウェイバック

『ウェイバック』を観る。久しぶりのピーター=ウィアー作品。シベリアの矯正労働収容所を脱出してバイカル湖を南下しその上、砂漠を横断しヒマラヤを越えてインドに到達したというポーランド人の手記をもとに、その道行きを描いたという映画で、ロードムービーというよりはある種のサバイバルものなのだけれど、ただひたすら歩き続けるという内容でアクションと呼ぶべきシーンすらない。収容所を脱走したとはいっても真の牢獄は自然そのものであるという劇中のセリフ通り、一団の逃亡者が闘うのは追跡者にあらず、寒さと飢え、乾きであり、状況から脱北者を題材にした『クロッシング』を思い出したけれど、圧政を逃れるために人が歩む道があるとすればその足跡はゴビ砂漠のあたりに重なっていて、人の暴虐がもたらす悲劇の質は半世紀経とうがあまり変わらない。わずかに、本作には救いとなる結末が用意されているにして。
主人公のジム=スタージェスにはじまり、エド=ハリスやコリン=ファレルが出演しており、題材のイメージとは異なりちょっと豪華なキャストなのだけれど、何より『ハンナ』のシアーシャ=ローナンが一行に合流する不思議な少女として登場し、物語に奥行きを与える役を演じていてちょっと嬉しい。

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