あけましておめでとうございます。
例年にも増して飲んだくれている元旦、香港ノワールの巨匠、ジョニー=トー監督の『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』を観る。アンソニー=ウォンが殺しを生業とするやくざ者の兄貴といった役割で出ていて、いわゆる任侠ものであるという一点で脳内ルールでは正月に相応しい内容ではあるのだけれど、何しろ香港ノワールである以上はちょっと不思議な展開もあったりして善良な一般観客にとっての敷居はそれなりに高い。
マカオに住んでいる娘の家族が襲撃され、復讐を誓った初老の元ギャングの男が、勝手のわからないその土地で、たまたま目撃した殺人事件の実行犯たちを雇って敵を追うという導入からして多少の無理は承知という感じなのだけれど、この男に記憶障害があってそもそも復讐の継続すら覚束ないという設定が加わり、しかし雇われて復讐劇に参加することになった三人の男はそうであっても仁義を通し、いろいろ呑み込んで死地に赴くという話。複雑であるかに見える内容は手っ取り早い展開で構成され、つまりいわゆる御都合主義であるので、実際には単純な一方、むしろ分からないのは損得を越えた心の内という任侠ものの要点をきっちり抑えてあるので、香港ノワールを観たという満足度は高い。筋書きからしてフレンチノワールとのクロスオーバーみたいな印象もあるのかと思ったのだけれど、さにあらず徹頭徹尾、香港黒社会のアクが強く西欧の匂いはほとんどしない。
アンソニー=ウォンはセリフ自体、極端に少ないが、鬼と書いてクワイと読むキャラクタそのもの、全く違和感のない役柄で自家薬籠中といった感じ。