2013年に観た映画のこと

どうでもいいことだが、今年はリンカーンの当たり年で『リンカーン弁護士』『リンカーン/秘密の書』『リンカーン』とタイトルにこれを冠した映画を三つも観たのだが、『秘密の書』はおくとして、年初の『リンカーン弁護士』はかなりよかったという記憶がある。マシュー=マコノヒーは単なるヒーローというよりは、ちょっと悪い感じの役柄がよく似合う。『リンカーン』のほうも噂に違わぬ良作で、ダニエル=デイ・ルイスの演技もさることながら、物語としての時間軸の設定に感心した。歴史ものでは『キングダム・オブ・ヘブン』の時空の切り取り方にも唸ったものだが、それに比肩する。
年末にはポール=ウォーカーの事故死というニュースに驚いたが、夏に観た『逃走車』を今年の一作として挙げておく。このひとの爽やかさを惜しむ気持ちは大きい。
かねて表明していたことではあるけれど、マックス=ブルックスの『WORLD WAR Z』は私的オールタイムベストに入る傑作だと考えており一方、ブラッド=ピットによる映画化である『ワールド・ウォーZ』のほうは激しく期待外れという他なく、ウィルス学者の衝撃的な最期の印象が強いこともあって冷静になれない。同じく映画館に出かけて観た『パシフィック・リム』と評価が大きく分かれたわけだけれど、そもそも並べるようなものではないとして、素材に対する愛情という点では後者に圧倒的な訴求があったと思うのである。
SFでは『クロニクル』がよく出来ていて、既にして出尽くした感のあるPOVジャンルの作品としても出色だった。他方、『オブリビオン』はごくオーソドックスなSF映画という印象で、先行作品へのリスペクトが感じられる作りだったけれど、そこを踏まえてあえて高い評価をつけたい。トム=クルーズの映画では他に『アウトロー』が古風なヒーローものの背骨をもった作品で、異なる分野ながらジャンル映画の再構成という共通点があって興味深い。
最近観た『マン・オブ・スティール』はストーリーこそマーベルの諸作と選ぶところがないにして、よく知られたヒーローの出自を語り直すという近年のパターンにおける最新の収穫であり、こちらもオマージュを好む性質なのでかなり楽しんだ。ヒーローものでは『アイアンマン3』も面白かったけれど、このあと何処へ向かうのかという印象もまた強い。
『エンド・オブ・ホワイトハウス』も『ダイ・ハード』全盛期に流行った語り口のリバイバルで、ある意味、妙に懐かしい映画ではあった。悪く言えば、新しい酒を古い革袋に入れている本作に対し、『ジャンゴ 繋がれざる者』あたりはウェスタンの体裁でありながらかなり新しい印象を受けたのが好対照で、作家の力量ではタランティーノが一頭地を抜いている。
ドラマ部門があるとすれば、『ゼロ・ダーク・サーティ』と『フライト』を挙げる。ジェシカ=チャステインがこれまでの印象とだいぶ離れた演技をみせていた一方、デンゼル=ワシントンの演技プランは従来通りという印象ではあったけれど、どちらも甲乙つけがたい奥行きがあって堪能した。
言うまでもなく、今年最大の私的ヒットは『あまちゃん』で、これにしたがい宮藤官九郎作品をよく観たけれど、わけても『少年メリケンサック』がお気に入りで、だれが何と言おうと宮崎あおいの好感度が高い。松田龍平と共演した『舟を編む』の評価が自動的に高くなる所以である。
テレビでは堺雅人の人気も凄かったようだけれど、残念ながら『半沢直樹』はフォローしておらず、ただ内田けんじ監督の久しぶりの作品である『鍵泥棒のメソッド』は相変わらずの凝ったシナリオに堺雅人、香川照之、広末涼子のキャラクタが立っていて見応えがあった。他に『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』が2作目にしてお約束のパターンを確立していて滅法面白い。
趣味として好きなジャンルというのは狭いところに集中しているのだけれど、こちらも当たり年とみえて『LOOPER/ルーパー』『キャビン』『レッド・ライト』が今年の五指に入るあたりに位置している。どれもひと捻りが効いた佳作であり、結局のところ好みといえばこの分野なのである。
そして、最大の収穫を挙げるとすれば『ルビー・スパークス』を措いてなく、ポール=ダノの茫洋とした感じはもとから好きだけれど、主演女優でありつつ脚本をものにしたゾーイ=カザンの才気と魅力には畏れ入った。