人生はビギナーズ

『人生はビギナーズ』を観る。マイク=ミルズの自伝的なストーリーという話だけれど、過剰な自意識はなく、父親との日々を回想した内容は、映画でしか表現し得ない感情の書き込まれたもので見応えがある。ジャック・ラッセル・テリアのアーサーと同様、登場人物には言葉では表現できない内奥が与えられていて、言うまでもないその当たり前が、しかし意識的に描かれている作品は非常に少ない。膨大な言葉の積み上げられた古本屋が何回か登場するのも、様々な種類のディスコミュニケーションと共感が描かれるのも無論、意図のあることで、緻密に構築された画面は静かに続くものの、この手の映画にはめずらしく退屈というものがない。クリストファー=プラマーが演じる父親がアカデミー助演男優賞を得ているのも宜なるかな。

三年坂