海炭市叙景

『海炭市叙景』を観る。20年以上前に自死した佐藤泰志の同名短編集から抜き出した幾つかのエピソードによって構成された長編映画で、152分あってかなり長い。2010年の作品なので劇中には携帯電話も出てきたりするし、車は最近のモデルだったりするけれど、冒頭のエピソードでは造船所の縮小でリストラされる兄が登場するわけで、時代の印象にちょっと戸惑う。全編、尋常ではない不景気さが漂っており、感情の発露があるとしても一瞬なので抑揚は敢えて存在しない。これぞ邦画というつくりではあるにもかかわらず思わず見入ってしまうリズムがある。映画的にはエピソードの交差を追うあたりが面白味ではあるけれど、ここに流れている河はあくまで暗く、深い。

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