『風立ちぬ』を観る。『ひこうき雲』をBGMにした予告編は幾度となく観たし、堀越二郎その人による『零戦』は読んでいるので、予習は万全というところだけれど、あの、ひとの口になる独特の効果音とか、貧しい国だったころの日本の心情とか、物語を象る細部の力強さに至るまで、宮崎駿の表現は無論のこと自在であり、ほとんど神話的な奥行きと高度をもつ広がりであって、冒頭の夢から結末の夢まで、こちらとしては美しいものをみたという感慨でほとんど満腹となっている。すごい。
三列三葉のカプローニCa.60を浮揚させてみるというのがまず見ものだし、航空母艦の発着など余人には描き得ない境地といえ、最後に登場する九試単座の神々しいシルエットに至るまで、アニメーションによって息吹をあたえられた飛行機が、風景と人の営みのなかで順繰りに前景化する全編はひたすら心地よい。