さよなら、アドルフ

『さよなら、アドルフ』を観る。ナチスドイツの敗戦後、親を収監され、これまで特権階級にいた子供たちが価値観を覆されつつ北に向かう旅路を描く。レイチェル=シーファーの小説の映画化で、オーストラリアのケイト=ショートランド監督が脚本まで書いている。状況は過酷だが、映像は美しく、中間色とソフトフォーカスを導入したテレンス=マリックみたい。
ずいぶんと優しい語感の邦題になっているけれど、戦争直後ドイツの戦争犯罪の上に立つ旧い価値観への訣別はその否定から始まるというラストシーンからするとなまなかなものであり、ひとつの回心の話だとすれば主人公の名を冠した原題の方がふさわしい。いうまでもなくかの総統はファーストネームで呼ばれるような存在としては登場せず、少女が主人公だからといってこのタイトルはどうも戦後総括の不徹底を露呈している印象で座りが悪い。

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