みずは無間

第1回ハヤカワSFコンテストの大賞受賞作で、読もう読もうと思いつつ後回しになっていた『みずは無間』を読む。自我をもった宇宙探査機の彷徨といえば神林長平の『宇宙探査機 迷惑一番』が思い浮かぶけれど、似たような設定と思わせつつ、AIがその知性を増殖させながら古典的教養小説を思わせる問答を通して世界を構築していく本作の展開はまったく異なるもので、むしろ神林長平の他の諸作を連想させる感触をもっている。氏が自我の同一性の曖昧な境界を描きながら内側にとどまっているのに対して、自我そのものがコピーであることに懐疑的な問い立てを持たないところが本質的に異なるとして。
一行で2000年というスケールと地上のずぶずぶとした記憶が絡んでいるあたりは今どきのSFっぽく、一方その思弁はテキストでなければ表現し得ないものでなかなかよくできている。面白い。