『やさしい本泥棒』を観る。マークース=ズーサックの『本泥棒』の映画化で、ジェフリー=ラッシュとエミリー=ワトソンが養父母の役。ナチス政権下の厳しい暮らしのなかで、文字を知らなかった主人公の少女リーゼルが書物を読み、文章を記すことで成長していく物語だけれど、何しろ死神が語る物語である以上は、そしてこの時代の物語である以上は、人々はみな去っていく。考えてみればストーリーを転がすための大きな事件は起きないのだけれど、物語の起伏は十分で、見どころは広場での焚書のあたりか。書物の焼かれるところでは、やがては人が焼かれることになる。そしてその雰囲気は今や本邦でも遠い昔の話というわけではない。