アリスのままで

『アリスのままで』を観る。ジュリアン=ムーアがアカデミー賞主演女優賞となった作品で、若年性のアルツハイマーを発症した言語学者を演じている。特徴的な顔つきなので、どちらかというと演技の幅を感じない役者という印象があるのだけれど、本作については幼年時への記憶へと還っていく時間のなかで、ゆっくりと表情を失っていくその起伏が演じられていて、称賛を受けるのもわかる。
原作の小説は主人公に似た経歴の神経科学の博士が書いており、フィクションとはいえ日常そのものにリアリティを感じるし、一進一退を繰り返しながら、しかし徐々に悪化していく症状とアリスの心象そのものを、カメラのフォーカスや小道具の鏡で表現する演出はわかりやすく、映像としてもよくできている。女優の力があらわれているのは、何回かの問診のシーンだろうし、病状の進行を見越して録画された動画を当人が何回も確認するシークエンスは画面のなかの当人との落差にショックがあって、ターニングポイントとなるスピーチの場面とともに見どころとなっている。
アレック=ボールドウィンが夫の役で、誠実で献身的なところあるけれど決してヒーローではない微妙な人のよさでこちらもなかなかよい。

桜