『ブラック・レコード』を観る。ドイツとの戦争を始めようとしている英国で宥和政策をめぐる陰謀めいた動きを背景に、これに巻き込まれた女優を主人公としたサスペンスだけれど、全体に『バルカン超特急』ばりの不条理で不気味な雰囲気が漂っていて、なかなか見応えがある。いわゆる上流階級の家族の物語でもあり、ジョー=ウォルトンの『ファージング』三部作を彷彿とさせもするけれど歴史改変ものではなく、いかにも英国風のサスペンスで、真相の解明といった手続きにはあまりこだわりはない様子だけど消化不良という印象もまたない。
狂言回しでもある不気味な子供ウォルターは、ただの子供なのに立派に不気味であり、このあたりの演出はうまいし、父親の議員を演じているビル=ナイは、本心の窺えない得意のキャラクターで、彼の最上のところが出てくる役回りではないけれど、もちろんビル=ナイなので存在しているだけで雰囲気がある。