『マダム・マロリーと魔法のスパイス』を観る。主人公が空港でインドの少年時代を語り始める冒頭は『マイネーム・イズ・ハーン』か『スラムドック$ミリオネア』かという感じだけれど、フォーマットに拘泥することはなく多少の節操なさも醸しつつストーリーは速やかに南仏ものに転じ、前半はミシュランスターレストランの道向かいに移民のインド人一家が開店したインド料理屋とマダムの衝突がコメディタッチで語られる。人気の小説が原作らしいけれど未読。
主人公はインド移民の料理人で天賦の才をもち、彼を助ける副シェフとのロマンスや、ヘレン=ミレンが演じるちょっと頑固なマダムと主人公の父親の諍いと和解があって、全体に盛り沢山の人情話をわかりやすい演出で捌いているあたりはさすがベテランのラッセ=ハルストレムという印象。後半は料理の話がモレキュラー・キュイジーヌにまで転がっていくのにちょっと意外な感じもあるのだけれど、もちろん起伏は予定的に調和しており、スティーブン=スピルバーグとオプラ=ウィンフリーがベストセラー小説をもとに手堅い投資として製作したということであれば職人肌の監督はその期待にきっちり応えている。
意地の悪い見方はともかく、インド料理の出番は意外に少ないものの、料理が美味しそうで香りがたっているという点で映画は成功しているし、ジャンル映画としては十分に楽しめる。