『地獄の黙示録 特別完全版』を観る。オリジナルよりも50分近く長くなっている本作以降、フランシス=フォード・コッポラはワイナリーのオヤジに収まって、思い出したように映画の監督もしているけれど、もはや余技という印象でそれらの作品はどうも重要とは思えない。完全版で付加された53分は余計という向きもあるけれど当時、コッポラの全盛が過ぎていたのは間違いないにして、全体として偉大な作品であることはかわりなく、神話的なモチーフが錯綜する202分は特に長く感じない。
フレンチプランテーションのエピソードや、カーツの述懐が加わったことで『闇の奥』の文脈が濃くなったという見方には頷けるものがある。オリジナル脚本のジョン=ミリアスが原典に呼応させて書いた部分が前景化しているということであろう。
カーツが読み上げるタイムの“The War”の記事のシーンに続く“how do they smell to you, soldier?”というセリフは、もちろんキルゴア中佐の有名なセリフ“I love the smell of napalm in the morning”に呼応しているのだけれど、日本語の字幕ではこのあたりのせっかく追加された内容に適当な訳がついている。このあとに“there’s nothing that I detest more than the stench of lies”というシーンが続くのだから、匂いというのは重要なキーワードで、いささかもったいないと思うのである。
印象的なシーンが幾つもあるので、各人によって好きな場面が異なるのが本作だろうけれど、あまりにも有名なワルキューレの騎行を含む前半は神がかっているというべき映像で後世への影響は大きく、難解なところもあまりない。
“Just go by like you’re fighting. Don’t look at the camera.”と叫んでいる取材班のディレクターはコッポラその人で、込み入ったアイロニーも実に分かり易いというべきだが、ロバート=デュパル演じるビル=キルゴア中佐の異常な言動も、マスメディアのコンテンツとなれば明快な物言いと派手な戦果になるのが画面の外の出来事だとすれば、状況は今日の我々にとっても他人事ではないわけである。
ウィラード大尉が乗り込むことになる哨戒艇がUH-1に吊るされて輸送されるシーンは、同じようにヘリコプターに吊られ牛が運ばれる異様なカットに重なるけれど、クライマックスの犠牲の牛との三重露光ともなって、やはり何度か観るべき映画であろう。