『her/世界でひとつの彼女』を観る。最近のホアキン=フェニックスの映画を観るのには少し勇気がいると思っていたのだけれど、本作ではすっかり真っ当な役者に回帰していて何というか、ひと安心。
それほど遠くない未来、コンピュータのOSが人格といってよい動作を獲得し、手紙の代筆ビジネスに従事する主人公が交流をもつなかで自分の人間関係を捉え直す。Siriが進化するとこんな感じになるかも知れないと多くのひとが思うであろう時代であればこそ、描かれている世界には奇妙なリアリティがあって、これが10年前であれば捉え方も全く違っていたはずだが、まずはその到来した同時代性に感心する。この脚本は監督のスパイク=ジョーンズによるものでアカデミー脚本賞を獲っている。
ホアキン=フェニックスは永く一緒に生きてきて半身ともいうべき存在となった妻との離婚を思い煩っている主人公で、相変わらず鬱屈を抱えてはいるのだけれど危うさはほどほどでマトモにさえ見える。スカーレット=ヨハンソンがOSの音声をあてており、サマンサという名前の彼女はもともとサマンサ=モートンが全編を収録していながら差し替えられてしまったという話で役者の世界もなかなか厳しい。
スケールの非対称性が露わとなる最後は、一歩間違えるとギャグのオチとなるはずだが役者は仕事をしていて、無論のことそれは回避されている。