ちはやふる 上の句

『ちはやふる 上の句』を観る。原作のマンガは未読。本邦の、しかも上下二部構成の映画をわざわざ映画館まで観に行くことがあろうとは。昼の上映を観て『下の句』は同日のレイトショーに出かけるというあたりから評価のほどを推察願いたい。
競技かるたというものの存在は知っているけれど、その実相を知らずというレベルの観客なのだが、映画は最低限のリテラシーで楽しめるように出来ている。あとでルールの詳細を調べたのだけれど、むろんのこと奥行きのあるもので、知れば二度おいしいという点で啓蒙的である。原作は1,200万部ということだけれど、日本の文化を底支えしているのはマンガであるという意見には説得力がある。そしてそのマンガを読んだことすらないこちらの層まで足を運んでいる点で実写映画化の射程は侮れない。
とはいえ、当方として原作は引き続き今後の課題ということにしていて、未読のまま本編を鑑賞したのに後悔はない。それというのもストーリー自体はほとんど神話的ともいえる少女マンガの類型で構築されており、ことに手際よく立ち上がっていく導入は、高校に入学して部活動を立ち上げるかるた一途な主人公と幼馴染、加えて員数集めに召集される変わり者の同級生という、王道ともいえる設定で、あらかじめ知っていればさすがに気恥ずかしいものに違いないからである。桜の花びら舞う主人公の登場場面に至る冒頭からの「じらし」の演出は、ことにマンガのコマを想起させる流れだけれど、きっちり映画になっている。
ハイスピード撮影を多用した競技シーンは本作の演出的な特徴になっており、その中でアップのレイアウトに耐える広瀬すずの造形は優れた女優の資質と言わねばならず、いい意味で色香のない演技は主人公の浮世離れした設定に嘘臭さを感じさせない。役者は総じていい仕事をしているようである。

たんぽぽ