後期高度資本主義社会に生きる人間として、クレジットカードでの買い物は紙幣に匹敵するほどに頻繁なのでいわゆるサービスポイントも気がつくと貯まっていたりする。敢えて買うまでは至っておらず、しかし興味があるものを試してみるには重宝で、このたびはバルミューダの「ザ・トースター」に引き換えてみる。
日本の総合家電の凋落が言われて久しいが、今や資本蓄積の必要があまりないこの分野において技術と知見の蓄積で勝負をしようというメーカーのスタンスは評価できるし、トースト5,000枚を焼いて試したという開発ストーリーは、ダイソンの掃除機試作5,127台に類するエピソードで一定の訴求力がある。
何より、「ザ・トースター」で焼いたトーストはうまい。コアにあるアイディアはシンプルだし、掃除機ならダイソン、アイロンならティファールという家電の定番化の流れにおいて、新たな一角を占めることになってもよいのではないか。
懸念があるとすれば定番のモノとしての品質で、いくら優れた温度制御があったとしても十分な質感と耐久性がなければ普段使いの定番品にはなりえない。ダイソンはモノとしてはイマイチだけれど、消耗部分の交換性と手厚いサポート体制によってこの弱点を補っているわけである。バルミューダはストーリーの伝播に成功したとみえるけれど、真価が問われるのはこれからであろう。
この会社のコンピタンスはきめ細かい制御で従来品とは異なるユーザー体験を実現するというあたりにありそうだけれど、それにしたってたかだか5,000枚の試験で定番になり果せるほど人間の生活は浅くない。だいたい数で競えば『暮しの手帖』がトースターの評価で焼いた4万枚に負けているではないか。扇風機や他の家電に分散するリソースがあるとも思えない。まずは商品分野を絞ってみるということも必要なのではあるまいか。