『屍者の帝国』を観る。伊藤計劃のアイディアを円城塔が小説化した長い小説の、冒頭の講堂のシーンは伊藤計劃その人の手になるもので、その名調子はやはり上手いと唸ったものだが、ノイタミナによるアニメ映画である本作では冒頭の二行こそ原典を引いているのだけれど、キャラクターの見た目に応じてだいぶ異なる立ち上がりとなっていて残念という他ない。キャラデザインがもたらす世界観はこちらが期待しているものとだいぶズレており、パスティーシュの雰囲気は希薄で、独自の物語になっている。何しろジョン=ワトソンがとてもワトソンに見えない。このアニメから虚構世界に立ち入る若い人たちは、背景にある数々の物語を知らず消化することになるのではあるまいか。実に勿体ないことだし、やはりこれは観たかったものとは少し違う。だいたい、愁嘆場が長すぎるうえ、とってつけたようなオマケは何なのか。