『日本のいちばん長い日』を観る。岡本喜八監督による1967年の映画ではなく、戦後70年のリメイク版。いささか懐疑的な心持ちで観始めたのだが、これがなかなかの出来で感心したのである。少なくとも前半のつくりには感銘を受けた。
このバージョンでの大きな違いは、本木雅弘が演じる昭和天皇その人の登場だろうけれど、下手をすれば滑稽にしかならないところ、常人ならざるオーラがこれを茶番にしていない。
それに限らず、原田眞人監督の演出は、所作の細部へのこだわりを感じさせるもので、登場人物の動きがいちいち、半藤一利も書き得ないディテールまで表現するのでリメイクそのものの意図さえ腑に落ちて見応えがある。
天皇が阿南惟幾大将を「あなん」と呼ぶシーンがあったり、かなり細かいところまでエピソードを網羅した脚本は監督自身によるもので、複雑な状況におかれた登場人物が、本音を押し隠しつつ終戦工作をすすめる経緯には説得力がある。諸説ある阿南惟幾の本心については、いずれ推測の域を出ない再現ではあるものの、こうした文脈は無論ありであろう。その自裁に至るまで、伝えられている範囲で組み立ていているあたりには好感がもてる。
同様に、山崎努が演じた鈴木貫太郎は海軍軍人らしい感じこそ希薄であるものの、これまたそうかも知れないと思わせる人物像で奥行きがある。御前会議のシーンはヤマ場のひとつ。
一方、宮城事件に至る将校たちの動きは、結局のところ大した企てもなく自転車で駆けずり回っているようにも見えるけれど、その心許なさは実際でもあったのではあるまいか。終盤にかけてのドラマな展開は不要の印象だけれど、概ねよくできていると思われ、岡本喜八版よりも気に入った。