『ひよっこ』の面白さはいろいろあるけれど、こちらが承知している範囲では『あまちゃん』以降の朝ドラ、場合によっては『真田丸』を連想させる記号やエピソードを散りばめているあたりはとても好き。アパートの面々が月時計でオーダーするのが基本的にウィスキーというのさえ『マッサン』を踏まえてのことだと思うし、田舎から上京して女優を目指す時子の設定そのものがもちろん『あまちゃん』を思い出させる。乙女寮の誰かに子供が産まれれば子供服を贈るエピソードが挟まれるはずである。(そしてもしかしたらそれは母の手作り服というくだりで既に消化されている)
少し懐かしい時代を扱いながら、登場するのは勤勉な市井の人たちで、アンチドラマとも言われるほど事件という事件は起こらず、基本的には日々の生活や会話によってキャラクターを浮かび上がらせるこのドラマがやろうとしているのは、普通にいたかも知れない普通の人たちの暮らしと幸せを描こうということではないかと思っているけれど、これまでの朝ドラ世界の歴史観と連続性のなかに繰り返し位置付けられることで、そのテーマには奥行きと説得力が生じている。時代は移ろっても人々の生活は同じように営まれるし、かつて同じように歓び、涙を流した人たちがいたということを、これほど芳醇に語り得たドラマがあったろうか。この枠でしか実現することのできないテクニックを使って、脚本の岡田惠和は凄いことをしていると思うし、物語の折り返しを過ぎてその確信はますます深まる。