『アイアムアヒーロー』を観る。公開時に劇場にも出かけたものだけれど、本邦の本格的なゾンビもので、なおかつ野木亜希子脚本であればもちろん何度でも観る必要があって、冒頭から30分の手際は素晴らしいし、修羅場から街中がパニックになるまでの長回しはやっぱり見応えがあって楽しめる。日常が崩壊しているさなかもテレビ東京はアニメを放映してるというネタは『シン・ゴジラ』にもあったけれど、そういえば本作にも仕込んであって、お約束がきちんとしているのは大事。
メロンパンの半分こからイヤホンの半分こを経て、英雄の動機が急速に立ち上がり、子連れ狼と化していくあたりも流れはいいのだけれど、時間の経過はやっぱりちょっと謎で、無精髭の状態からするとほとんど遭難と言えるくらい樹海近辺を彷徨っていたことになる。あの髭は必要な演出だったのか。アウトレットモール屋上の人々が静止しているシーンとか、英雄の衣装の変化とか案外、ディテールのよさもあるのだけれど、地図というにはあまりにも杜撰な地図とか、弾薬にかかわる詳細が描かれていない細部とかはやっぱり気になって、このあたりはいささか惜しい。
英雄がロッカーのなかに閉じこもるシーンからの藪救出、アベさんがZQNの大群を引き連れてくる流れから10分を越える大立ち回りと凄惨な現場は、やはり本邦ゾンビ映画のメルクマールとなるであろう。大状況が一切、片付いていないにもかかわらず、映画としての結末を与えてカッコいいエンディングタイトルに入っていく処理もやっぱりキレイで感心する。当たり前のようで、この回収の手際は難しい仕事のはずである。