ウォー・マシーン

『ウォー・マシーン』を観る。ノンフィクションの『The Operators』を原作として、アフガニスタン司令官を解任されたスタンリー=マクリスタルをモデルに、これをカリカチュアしたキャラクターをブラッド=ピットが演じている。タリバン制圧という目的をもはや見失い、作戦上の勝利条件を喪失して迷走する現場の収拾を期待された司令官その人が、基本的に「勝つか、負けるか」という価値観しか持ち合わせていない状況の悲劇を喜劇として描いている。オバマ大統領は実名で、国務長官は明らかにクリントンに似せて登場し、ハーミド=カルザイは傀儡を自覚した一面の賢者であって、もちろん軍ばかりでなく政治に対する批判精神が窺われ、しかもリベラル的に上質な批判精神とみえるのだけれど、それが機能するのもトランプが大統領になる前の世界の話だ。現実の醜悪な戯画化は制作サイドにとっても想定外であったに違いない。
出陣訓のシーンは迫真で、一発の銃弾も飛ばないのかと思えば無統制に混乱する現場の作戦もそれなりに描かれていてクライマックスは緊迫する。とはいえ、ただのドンパチにしないところに良心があって好感が持てる。
個人的な白眉はパリでの講演のシーンで、ドイツ人の女性議員に「国民に仕える人間に個人的な野心がないか監督するのも私たちの務め」と言わせたこのセリフこそ、彼の国ばかりでなく、本邦の現在に必要なものと思えて印象に残る。ヨーロッパではこうした場面が実際にもあったに違いないのだが、今の日本にこれを聞いて恥じない議員がどれほどいるのかと思い、そしてこれを常識的な規範と考えない国民がどれほどいるかとも思ったのである。

春