『メッセージ』を観る。『ボーダーライン』のドゥニ=ヴィルヌーヴ監督によるファーストコンタクトもので、テッド=チャンの『あなたの人生の物語』を原作にしている。とはいえ、その原作こそ、そもそも映像化が可能とも思われない小説なので話の内容はだいぶ脚色されており、しかしコアとなるアイディアについてはかなりうまく処理されているのではあるまいか。「フェルマーの原理」を持ち出す原作に比べ、かなり文系っぽい翻案であるとはいえ、伊藤計劃を好む向きには合うに違いない。主人公の娘たる「あなた」もまた遂行的で直観的な同時認識の影響を受けていることを示唆する一枚の絵は、原作の論理的帰結には合致しないと思われるので最早、別の物語と言えるかもしれず、しかし映画としてはかなり上出来な構成となっていて感服した。
ちなみに、軍内部の過激分子による破壊工作も、中国に関わるあれこれも、クライマックスのゴタゴタすら原作には登場しない筋書きだけれど、映画としては見せ場になっているし、マーケットとしての中国にもうまく目配せした印象で商業的にもなかなかうまい。
ずいぶん咀嚼されているとはいえ、このテーマを映像化しようという気概だけでも買わねばならないし、目論見はかなり当たっているのではないか。「表義文字」のヴィジュアルにも感心した。ジャンルはちょっと違うけれど雰囲気としては『インターステラー』が好きな層にもお勧めできる。